大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

水戸地方裁判所 昭和48年(ワ)377号 判決 1977年5月10日

原告

目黒三平

ほか三名

被告

照沼正見

ほか一名

主文

一  被告らは連帯して、原告目黒三平に対し金二〇万四〇六〇円および内金一六万四〇六〇円に対する昭和四七年六月二九日より、原告亡目黒リサ相続人目黒定雄に対し金一二万円および内金一〇万円に対する前同日よりそれぞれ完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その四を原告らの連帯負担とし、その一を被告らの連帯負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは連帯して、原告三平に対し金一六六万七〇〇円および内金一三三万七〇〇円に対する昭和四七年六月二九日より、原告勝堅、同美加子に対しいずれも金五三八万五九〇〇円および内金四九三万五九〇〇円に対する前同日より原告亡目黒リサ相続人定雄に対し金一一〇万円および内金一〇〇万円に対する前同日より、原告正子に対し金三〇二万八七〇〇円および内金二七五万八七〇〇円に対する前同日よりそれぞれ完済までそれぞれ年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  (事故の発生)

被告照沼は次の交通事故を起し、訴外亡目黒兼雄(以下「亡兼雄」という。)に傷害を負わせ、因つて死亡させた。

(一) 発生時 昭和四七年六月二二日午後零時二〇分ころ

(二) 発生場所 茨城県那珂郡東海村村松一二四七番地の一二先路上

(三) 加害者 大型貨物自動車(茨一い五五七八号。以下「加害車」という。)

運転者 被告照沼

右保有者 被告株式会社山縣組(以下「被告会社」という。)

(四) 被害者 亡兼雄

(五) 態様 被告昭沼が、加害車に積載中のブルドーザー一台を地上に降ろす作業を行なつた際、亡兼雄が右ブルドーザーの下敷となつたもの。

(六) 傷害の程度および死亡の事実

亡兼雄は左大腿骨開放性骨折、右下肢挫滅骨折、左大腿挫滅創、胸部打撲、全身シヨツク尿毒症、肝腎炎等の傷害を受け、本件事故日に日立市久慈町三丁目四番二二号日立港病院に入院し、治療を受けたが、挫滅症候群による全身シヨツク等により、同月二九日右病院において死亡した。

2  (責任原因)

(一) 被告会社は、加害車を所有し、これを自己のため運行の用に供していたので、自動車損害賠償保険法(以下「自賠法」という。)第三条による責任

(二) 被告照沼は、本件事故発生につき次のような過失があつたので、民法第七〇九条による責任

被告会社は、訴外石神建設工場(亡兼雄の勤務先。以下「訴外石神建設」という。)からブルドーザー一台の運搬を依頼され、被告会社の従業員被告照沼をして右運搬作業に当らせたものであるところ、被告照沼は亡兼雄とともに東海村大字川校所在の訴外石神建設作業現場で右ブルドーザーを加害車に積載し、同車を運転して本件事故現場に至り、右ブルドーザーを同車荷台から路上におろす作業に着手した。

ところで、本件のごときブルドーザーを加害車のような荷役装置付トラツク(セルフローダー)から地上に降下させるため一般に認められている作業手順はつぎのとおりである。

すなわち、セルフローダーの荷台後部から路上にかけて道板二枚を架橋したあと、セルフローダーの運転者とブルドーザーの運転者とが各運転台に乗り、荷下し作業に伴う危険の発生を防止するため、連絡を緊密に行ないつつ、セルフローダーの運転者においてセルフローダーの荷台前部を上げて荷台を傾斜させ、次いでブルドーザーの運転者において右斜面を利用し、ブルドーザーを運転して徐々に路上に降下させるのである。

したがつて、本件においても、被告照沼は、本件ブルドーザーを下ろすにあたり、右作業から生ずることがある危険を未然に防止するため、細心の注意を払い、とくに、亡兼雄との間に緊密な連絡をとり、亡兼雄がブルドーザーに搭乗して同車の降下準備が完了したことを確認したうえで、加害車の荷台操作に移るべき業務上の注意義務がある。

しかるに被告照沼は、亡兼雄と協力して道板二枚を架橋したあと、加害車の運転台に搭乗したものの、前記注意義務を怠つたため、亡兼雄が未だ路上におり、ブルドーザーに搭乗していないのにかかわらずそれを確認せず、しかも同人の間に、ブルドーザー降下作業開始につき必要な連絡をしないまま漫然と加害車の荷台を傾斜させ、ブルドーザーを降下させ始めた過失により、亡兼雄においてブルドーザーの転落を防止するため、荷台の傾斜を中止すべき旨大声で叫びながら、道板からブルドーザーのキヤタピラを駆け登ろうとして転倒した際、同人に対しブルドーザーを転落、轢過させて前記傷害を与え、よつて死亡させるに至つたものである。

3  (損害)

(一) 葬儀費 金三〇万円

原告三平は亡兼雄の父として葬儀費用として、金三〇万円を支出し、同額の損害を蒙つた。

(二) 治療費等合計 金三万七〇〇円

原告三平は亡兼雄の前記日立港病院における入院中の治療費等として金三万七〇〇円を支出し、同額の損害を蒙つた。

右合計金の内訳は、(1)治療費金六三〇〇円、(2)診断書費金二〇〇〇円、(3)付添費用金二万円(一日金二五〇〇円の割合による八日分)、(4)入院中諸雑費金二四〇〇円(一日金三〇〇円の割合による八日分)である。

(三) 逸失利益 金一三七二万五六〇〇円

亡兼雄は、本件事故当時、訴外石神建設の従業員として勤務し、ダンプカーやブルドーザーの運転業務に従事しており、本件事故に因り死亡したものであるところ、同人は事故当時三一歳であるから、六三歳まで稼働可能であり、事故当時の同人の平均給与は一ケ月金九万四八二円であり、かつ、その生活費は三割とみるのが相当であるから、同人の逸失利益からホフマン式計算法によつて年五分の中間利息を控除すると、その現価は金一三七二万五六〇〇円である。

原告勝堅と同美加子は亡兼雄の子として、同正子は亡兼雄の妻として亡兼雄の右損害賠償請求権を相続分に応じてそれぞれ三分の一(各金四五七万五二〇〇円)ずつ相続した。

(四) 慰謝料 合計金七〇〇万円

(1) 原告勝堅、同美加子

右両名は亡兼雄の遺児であるが、父の死亡により将来の生計の資を断たれ、かつ、父を亡くした精神的打撃が大きいことを考慮すると、その慰謝料は各金二〇〇万円とみるのが相当である。

(2) 原告三平、同亡リサ

右両名は亡兼雄の父母であるが、すでに成人に達し、一家の支柱ともなつていた亡兼雄を失つた精神的打撃は甚大であり、その慰謝料は各金一〇〇万円とみるのが相当である。

なお、右原告リサは昭和五一年四月三〇日に死亡し、その慰謝料請求権は子の定雄が全部これを相続した(リサの相続人は、夫の原告三平と子の訴外目黒カヅ子と右定雄の三人であつたが、右定雄以外の二名は被相続人から生前に相続分を超える贈与を受けた。)。

(3) 原告正子

原告正子は亡兼雄の妻であつたが、本件事故により夫を亡くし、かつ、そのためやむなく亡兼雄の戸籍から実家の戸籍に復籍するに至つたことを考慮すれば、その慰謝料は金一〇〇万円とみるのが相当である。

(五) 弁護士費用 合計金一六〇万円

原告らは、本訴提起を余儀なくされて本訴遂行を原告代理人に委任し、着手金として、原告三平において金二〇万円を支払い、さらに謝金として、原告三平が金一三万円、同勝堅および美加子が各金四五万円、同リサの相続人定雄が金一〇万円、原告正子が金二七万円を原告代理人にそれぞれ支払う旨を約し、それぞれ同額の損害を蒙つた。

4  (填補)

原告勝堅、同美加子、同正子は自賠責保険よりそれぞれ金一六三万九三〇〇円(合計金四九一万七九〇〇円)を受領しているので、右各原告の請求額より右金額をそれぞれ控除する。

なお、原告正子は労災保険遺族補償年金の前払一時金として、金一一七万七二〇〇円を受領しているので、右金額を同人の請求額よりさらに控除する。

5  よつて、原告らは各自、被告らに対し連帯して、左表(イ)記載の損害金および同表(ロ)記載の各金員に対する本件事故発生日である昭和四七年六月二九日以降完済に至るまで、民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

<省略>

二  請求原因に対する認否

1  請求第原因第1項のうち(一)ないし(五)は認める。

同(六)のうち、亡兼雄が本件事故によつて傷害を蒙り、かつ、原告主張の病院で死亡したことは認めるが、その余の事実は不知

2  同第2項のうち、被告会社が加害車の運行供用車であること、被告照沼が加害車を運転していたことは認めるが、被告照沼に過失があるとの事実、被告らに責任がある点はいずれも争う。

3  同第3項のうち

(一)(二)は不知、

(三)のうち亡兼雄が原告主張の会社に勤務し、原告主張の勤務に従事していたこと、本件事故により死亡したこと、原告らと亡兼雄の身分関係は認めるが、その余の事実は否認する。

(四)のうち、原告らの身分関係、原告目黒リサが死亡し、目黒定雄がその地位を相続したことおよび亡兼雄が本件事故により死亡したことは認め、その余は争う。

(五)のうち、原告らと原告代理人間で、原告主張のごとき契約が存在したことは認め、その余の事実は否認する。

4  同第4項は認める。

5  同第5項は争う。

三  被告の主張

1  本件事故は被告照沼に過失はなく、亡兼雄の一方的過失により発生したものであり、かつ加害車には構造上の欠陥および機能に障害はなかつたものであるから、被告らに責任はない。

すなわち、

本件事故当日、被告会社は訴外石神建設からブルドーザー一台の運搬を依頼されたが、被告会社にはたまたまブルドーザーの運転資格者がいなかつたため、訴外石神建設がブルドーザーの運転者を出すならば、運搬する旨回答し、訴外石神建設もこれを承諾した。

そこで被告会社はその従業員被告照沼を加害車の運転に当らせ、訴外石神建設は亡兼雄をブルドーザーの運転に当らせた。従つて、被告照沼には、右ブルドーザーの運転については責任がなかつたものである。

ところで加害車がブルドーザーを荷台に積んで本件事故現場に到着後、荷台上のブルドーザーのバケツトの下にあつた道板をとり出すため、亡兼雄がブルドーザーのエンジンを作動させてバケツトを掲げ、被告照沼とともに道板を取り出し、加害車の荷台後部と路面の間に架橋したのであるが、この場合亡兼雄は、ブルドーザーのエンジンを停止させ、かつ、ハンドブレーキをかけてから同車を離れるべきであつたのに、エンジン停止およびハンドブレーキの牽引をともに怠つたまま、被告照沼に加害車の荷台後部を下げる様に指示した。本件事故は先ず亡兼雄の右の如き過失によつてブルドーザーが傾斜した荷台上から動き出したため生じたものである。

しかも、ブルドーザーは、荷台から道板を伝つて正常に路面に降下しているところ、亡兼雄が動き出したブルドーザーが道板まで来てから回転していたブルドーザーのキヤタピラに足をかけて乗ろうとしたため路面に転倒し、そこに降下してきたブルドーザーに両足を轢かれたものであり、亡兼雄のかかる無謀な行為がなければ、本件事故は発生しなかつたものである。

四  被告の主張に対する認否

被告の主張第1項のうち、亡兼雄が被告照沼と共に道板をかけ終つたあと、ブルドーザーのエンジンを止めずにおいたことは認めるが、本件事故につき亡兼雄にも過失があつたことは争う。

第三証拠〔略〕

理由

一  本件事故の発生

1  被告照沼が昭和四七年六月二二日午後零時二〇分ころ、茨城県那珂郡東海村村松一二四七番地の一二先路上で、被告会社が保有する加害車に積載中のブルドーザー一台を地上に降ろす作業を行なつた際、亡兼雄が右ブルドーザーの下敷きとなつたこと、この事故がもとで亡兼雄が同月二九日日立市久慈町の日立港病院で死亡したことは当事者間に争いがなく、亡兼雄が右事故により左大腿骨開放性骨折、右下肢挫滅骨折、左大腿挫滅創、胸部打撲、全身シヨツク、尿毒症、肝腎炎の傷害を蒙つた事実は、成立に争いのない甲第一号証ならびに原本の存在および成立に争いのない甲第二号証によつて認めることができ、他に右認定を妨げる証拠はない。

2  被告らの過失ならびに責任

(一)  被告照沼の責任

本件事故は、被告照沼が加害車を運転していた際に生じたものであることは当事者間に争いがない。そこで被告照沼に過失があつたかどうかについて判断する。

成立に争いのない甲第八号証、乙第一、第二号証、証人大森文、同坂場一彦の各証言および被告照沼本人尋問の結果、茨城ふそう自動車販売株式会社に対する調査嘱託の結果を総合すると、次の事実が認められる。

(1) 加害車は三菱ふそうセルフローダT九五一の大型貨物自動車で、荷台前部に取付けられた支柱が伸長して車台前部を持上げることができる設備があるため、荷台全体が後に傾斜(傾斜角は約一二度)し、その荷台後方と地面の間に道板をかけ、その傾斜面を利用してブルドーザー等の重量機械を荷台に積載し(積卸し)、運搬の用に供するものであること、右加害車の荷台からブルドーザー等の重機械を下すには、(イ)ブルドーザーのエンジンを停止し、荷台が傾斜しても動き出さない様にハンドブレーキをかけて運転手は下車する、(ロ)加害車とブルドーザーの運転手は協力して道板を荷台後方と地面の間にかける、(ハ)加害車の運転手は安全を確認しながらセルフローダを操作して荷台を後に傾斜させる、(ニ)荷台の傾斜によつて道板が動いていないか、ブルドーザーのキヤタピラの軸線と合つているかを確認する、(ホ)以上が終つて始めてブルドーザーの運転手がブルドーザーに乗車してエンジンをかけ、加害車の運転手の誘導に従つて地面に下りるのが作業手順であること、右作業手順から明らかな様に、双方の運転手は相互に緊密な連絡をしながら作業をすることが要請されること、

(2) 亡兼雄はブルドーザーの運転に当つていたが、加害車が事故現場に到着後バケツトの下にある道板を取り出すため、亡兼雄が加害車荷台上のブルドーザーのエンジンをかけてバケツトを上揚させ、被告照沼と二人で右バケツトの下にあつた道板(幅二〇センチメートル、長さ約二・三メートルの角材)二本を取り出し、加害車荷台の後部から路上にかけて架橋したこと、亡兼雄は、ブルドーザーのエンジを止めるべきであつたのに下車したまま停止の操作をしなかつたこと、その後被告照沼は加害車運転台の左脇に行き、荷台を傾斜させるためのレバーの操作を開始したこと、荷台最前部の床面が地上二・八五メートルに上揚したころ、荷台上のブルドーザーのキヤタピラが回転しはじめ、傾斜した荷台を下降しはじめたこと、そのとき、亡兼雄は荷台後部の中央からほぼまうしろ約五メートルの地点にいて被告照沼の操作をみていたが、ブルドーザーが動き出したのを見て、被告照沼に待てと声をかけ、あわててブルドーザーにかけより、既に道板上部まで下つていたブルドーザーにとび乗ろうとして左後部キヤタピラに足をかけたが、既に回転していたキヤタピラに足をとられてすべり落ち、荷台後部中央付近からほぼまうしろ約三・五メートルの地点に転倒し、下りてくるブルドーザーを避けようとしてはい出したが間に合わず、その両足を轢かれたこと、

(3) ところで被告照沼は亡兼雄がブルドーザー運転のベテランであるということは聞いていたが、亡兼雄に対しあらかじめ加害車のごときセルフローダーによるブルドーザーの荷降し作業の経験の有無について確認しなかつたし、又作業手順についての打合せもしなかつたこと、荷台のレバー操作に先だち、亡兼雄に対し、ブルドーザーのサイドブレーキを引いたかどうかの確認をせず、またブルドーザーのエンジンが作動中であることを知つていたのに、これを放置したこと、被告照沼は、加害車の荷台のレバーを操作して約一五秒後位にブルドーザーのキヤタピラが「カタカタ」と動き出した音をきき、ジヤツキを戻そうとしてレバーを操作したが、ブルドーザーが荷台後方に移動していたためジヤツキは戻らず、ブルドーザーは道板を伝つて地面におりたこと、

他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

右認定の事実によると、加害車の荷台の傾斜角から考えて、ブルドーザーのエンジンを止め、ハンドブレーキをかけておけば加害車の荷台を傾斜させてもブルドーザーが動き出すことはないものと考えられるので、これが動き出したことは右処置を怠つたもの(エンジンの点については前認定のとおり。)と推察するほかはなく、この処置はブルドーザーの運転手であつた亡兼雄のなすべきものであつたから、先ずこの点につき亡兼雄に過失があつたものというほかはない。しかも亡兼雄は道板まで動き出したブルドーザーに飛び乗ろうとして、回転していたキヤタピラに足をかけたため転倒したものであつて、かかる行為がなかつたならば、本件事故は生じなかつたものであり、本件事故の主因は亡兼雄の過失によると認められる。

しかし、前認定の事実によると、被告照沼にもまた過失があつたことを否定できない。

すなわち、被告照沼は荷台上のブルドーザーのエンジンがかかつていたのを知つていたものであるから、亡兼雄をして又は自ら右エンジンを停止すべきであつたのにこれを放置した点、ブルドーザーのハンドブレーキが引いてない状態で加害車の荷台を傾斜させれば、大きな危険の発生が予測されるから、亡兼雄にその点を確かめるべきであつたのにこれを怠り、同人のブルドーザー操作を過信して荷台を傾斜させた点、加えて、被告照沼はレバー操作開始後約一五秒経過したときブルドーザーがカタカタと動き出すのを知つたものであるところ、もし、細心の注意をもつて荷台上のブルドーザーを監視しながら、レバー操作をしたならば、極めて初期にブルドーザーの動きに気付くことができた筈であり、気付いたら直ちに上げ操作を停止して逆に下げ操作をしたとすれば或は本件事故の発生を避け得たものと考えられるところ、前認定のとおり下げ操作をしたが作動しなかつたのは、ブルドーザーが動き出したのを発見するのが遅れたため下げ操作の時期を失したものと推認される点において過失があつたものというべきである。

なお、原告らは、被告照沼が荷台操作を始めるときは、亡兼雄がブルドーザーに乗りこんだのを確認した後、その操作を始める旨亡兼雄に合図すべきであつたのにこれを怠つたと主張するけれども、加害車の荷台を傾斜させる前に荷台上のブルドーザーに運転手が乗りこむ作業手順でなかつたこと前認定のとおりである(若し原告ら主張の作業手順によれば、不満の危険を避け難い。)。又前掲甲第八号証、証人大森文の証言、被告照沼本人尋問の結果によると、被告照沼が荷台のレバーを操作する直前、亡兼雄に「降すよ」と声をかけた事実が認められるが、右証拠によれば両者の距離が約一一・三メートルであり、しかも前認定のとおり当時加害車、ブルドーザーともにエンジンがかかつていたので、被告照沼が右の合図をしても、果してそれが亡兼雄に届いたかどうかは断定できない。しかし、目撃者の証言(甲第八号証)によれば、亡兼雄が加害車の後方数メートルの位置に立つて被告照沼の操作を見ていたというのであるから、仮りに被告照沼の合図が亡兼雄に届かなかつたとしても、亡兼雄としては被告照沼が荷台操作を始めることを知り得た筈である(仮りに亡兼雄は被告照沼が荷台操作を始める前にこれを知り得なかつたとしても、亡兼雄の立つていた位置からみて、荷台操作が始まつた極めて初期の段階にこれを知り得た筈である。)。しかるに前認定のとおり荷台の操作が始まつてからブルドーザーが動き出すまで約一五秒の間があつたのであるから、亡兼雄において荷台降下作業の時期でないと考えていたとすれば、ブルドーザーが動き出すまで被告照沼の荷台操作を止める時間的余裕は十分あつた筈であるのにこれをとらず、ブルドーザーが動き出してから初めて危いといつてこれに飛乗ろうとしたことから考えると、亡兼雄としては被告照沼の荷台操作を知つてこれを認容していたものと推認されるので、原告ら主張の点を提えて被告の過失ということはできない。

以上のとおり、本件事故の主因が亡兼雄にあつたとはいえ、被告照沼の過失もその一因であつたものというべきであり、その過失割合は亡兼雄が八、被告照沼が二と認めるのが相当である。

よつて、被告照沼は民法七〇九条により、本件事故によつて原告らに生じた損害を賠償する義務がある。

(二)  被告会社の責任

被告会社は、加害車を保有しており、被告照沼が加害車を運転して本件事故を起したことについては当事者間に争いがない。

被告会社は自賠法第三条但書の免責を主張するけれども、被告照沼に前記(一)で説示のとおり過失が認められるから、被告会社の免責の主張はその余の点について判断するまでもなく理由がなく、被告会社は自賠法第三条による責任を免れない。

よつて、被告会社は、本件事故によつて原告らに生じた損害を、被告照沼と連帯して賠償すべき義務がある。

二  損害額

1  葬儀費

弁論の全趣旨によれば、原告三平は亡兼雄の父として葬儀を執行したことが認められるところ、その費用については兼雄の職業、年齢等本件記録によつて認められる諸般の事情を考慮すると、被告らの賠償すべき葬儀費は金三〇万円と認定するのが相当である。

2  治療費等

前掲甲第一号証、成立に争いのない甲第三、第四号証および弁論の全趣旨を総合すれば、亡兼雄は本件事故により昭和四七年六月二二日に日立港病院に入院し、同月二九日同病院において治療中に死亡したこと(入院期間は八日間)、原告三平において、治療費金六三〇〇円および診断書費金二〇〇〇円を支払つた事実を認めることができる。

そして亡兼雄の入院中はその症状からみて付添を要する状態であり、しかもかなりの入院雑費を要したところ、弁論の全趣旨によると原告三平がこれを負担したと認められ、その付添費は一日につき金一二〇〇円として、計金九六〇〇円、入院雑費は一日につき金三〇〇円として計金二四〇〇円とみるのが相当である。

3  逸失利益

亡兼雄は本件事故当時訴外石神建設に勤務していたことは当事者間に争いなく、証人坂場一彦の証言によつて成立を認める甲第五号証に同証人の証言によれば、亡兼雄は自動車運転手として稼動し、平均月収金九万四八二四円を得ていたことが認められる。

そして事故当時、亡兼雄は三一歳であつたから、本件事故がなければなお四一・七二年生存し(昭和四六年簡易生命表による。)、就労可能年数は六三歳までの三二年間と認められる。

そこで、亡兼雄の平均月収金九万四八二四円、同人は世帯主であつたから生活費をその三割とすると、一月当りの逸失利益は金六万三三三八円となり、年間の逸失利益は、合計金七六万五六円となる。これをホフマン式計算法(複式)により年五分の割合による中間利息を控除して就労可能年数三二年間の逸失利益の現在額を算出すれば(係数一八・八〇六)、金一四二九万三六一三円となる。

しかして、原告勝堅、同美加子が亡兼雄の子であり、かつ、原告正子は亡兼雄の妻であつたことは当事者間に争いがないから、右原告ら三名は各自三分の一ずつの相続分に従い、各金四七六万四五三七円あて承継取得したことになる。

4  慰謝料

本件に顕われた諸般の事情を考慮すれば、本件事故によつて蒙つた原告らの精神的苦痛を慰謝するには、原告勝堅、同美加子につき各金一五〇万円、同正子につき金一〇〇万円、同三平、同亡リサにつき各金五〇万円ずつが相当である。

なお、原告亡リサが昭和五一年四月三〇日に死亡し、子の目黒定雄が相続したことは当事者間に争いがないから、定雄は原告亡リサの慰謝料請求権金五〇万円を承継取得したことになる。

5  原告らの損害額

以上の次第で、原告らの損害額は、それぞれ次のとおりとなる。

原告三平 金八二万三〇〇円

同勝堅、同美加子 各金六二六万四五三七円

原告亡リサ相続人定雄 金五〇万円

同正子 金五七六万四五三七円

6  過失相殺

前認定のとおり、亡兼雄に過失があり、その割合は八と見るのが相当であるから、この限度で原告らの前記5記載の各損害額を過失相殺により減額すべきである。

右により過失相殺すると原告らの各残損害額は、次のとおりとなる。

原告三平 金一六万四〇六〇円

同勝堅、同美加子 各金一二五万二九〇七円

原告亡リサ相続人定雄 金一〇万円

原告正子 金一一五万二九〇七円

7  損害の填補

原告勝堅、同美加子、同正子が自賠責保険から各金一六三万九三〇〇円の給付を受けたこと、同正子が労災保険遺族補償年金から金一一七万七二〇〇円の給付を受けたことについては当事者間に争いがないから、これを前記6の各残損害額から控除すると、原告勝堅、同美加子、同正子については残損害は存しないこととなり、亡原告リサの相続人定雄につき金一〇万円となる。

8  弁護士費用

原告らと原告代理人間に、訴訟委任に伴なう報酬支払契約の存したことは当事者間に争いがなく、本件の請求額、認容額、亡兼雄の過失割合等諸般の事情を併せ考えると、被告らに負担さすべき弁護士費用は原告三平につき金四万円、定雄につき金二万円とするのが相当である。

9  結局、原告らの残損害額は、原告三平につき金二〇万四〇六〇円、原告亡リサ相続人定雄につき金一二万円となる。

三  以上のとおり、原告らの請求は原告三平の金二〇万四〇六〇円と内金一六万四〇六〇円に対する亡兼雄死亡日である昭和四七年六月二九日より、原告亡リサ相続人定雄につき金一二万円と内金一〇万円に対する前記同日より完済に至るまで、それぞれ民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、理由があるからこれを認容し、その金はいずれも理由がないので失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担については民訴法第九二条、第八九条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 菅原敏彦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例